書評

小説検索サイト「小説の主張」(閉鎖)にて篠崎由羅様に辛口希望で書評を書いていただきました。
褒められた点は素直に嬉しく、指摘していただいた部分は身が引き締まりました。肥やしにします。ありがとうございました。

 全章通して拝読しました。
 設定が面白いですね。天使の中に「救済」と「断罪」の二種を置いたというのも興味深いし、ストーリーの背景にある設定にまで目が届くので、話に奥行きを感じさせます。
 登場人物も、非常に活き活きと描かれています。印象が混ざることもなく、最後までジィルバとリヒトの個性が輝いています。人物描写、設定の裏背景、言葉の使い方など、どれを取っても素晴らしいと思います。ジィルバの過去と世界観がうまく融合していて、話の流れも非常にスムーズでした。
 ただ、少々苦言を申しますと話の起伏に欠けてしまう側面があるように感じました。天使の時代から人間の時代への一大変革期を舞台にしているにも関わらず、「小さくまとまりすぎている」感を受けるのです。ストーリーの中で注目されているジィルバとリヒトのやりとり――リヒトを通じて癒されていくジィルバの心情など、心理の推移は充分描かれているのですが、何故ジィルバが仲間を裏切ったのか――何故時代は人間達の世代へと変革されたのかなど、それらの点にはあまり触れずに、さらりと流している印象を受けてしまいました。 背景にある設定が壮大なスケールを感じさせ、またジィルバがその世界観の中にうまく組み込まれてしまっているからこそ、作品の中で世界観の裏背景を消化させる必要性があったような、そんな気も致します。骨組みがしっかりされているので、多少肉付けをしてさらに長編として執筆しても充分耐えうる内容と思われます。
 また、タイトルにある「薔薇の下」――作品の冒頭部分でその意味づけをされていますが、本作品とは直接的に関連づけがなされていないようにも思えます。このタイトルが表す意味は、作品の中でいえば「人間社会の特性」として描かれているように思えるのですが、ジィルバの生き方も、リヒトの生き方もそれとはまるで違う、非常にストレートで正直な生き方であるように思えるのです。その為、タイトルが作品から浮遊してしまっているような、そんな印象を受けました。


 最後に、ご質問にあった「面白いかどうか」ですが、私自身は「面白い」と思いました。ただ、前述しましたように読み終わった後、「世界観の絡みに対する不足感」は残ってしまいます。心理の推移がきちんと描かれている分、裏付けが欠けてしまっていたことが私としては口惜しいです。面白いからこそ、その点が余計に気になりました。
 どうぞこれからも執筆にお励みください。影ながら応援しております。

篠崎由羅様(「小説の主張」 http://www.yura-shino.com/novel-search/ 2007/12/31閉鎖)